寄棟屋根とは?メリットや棟板金の長さについても解説

屋根は、住宅の印象を左右するともいえる重要な要素のひとつです。
色や素材だけでなくどの形状を選択するかによって屋根はもちろん、住宅全体の寿命にも影響を与えます。

本記事では「寄棟屋根」について取り上げ、
押さえておきたいメリットや修理費用のポイントとなる棟板金の長さについて解説します。
他の屋根形状も併せて紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。

寄棟(よせむね)屋根とは

寄棟屋根(よせむねやね)は、上方に棟(屋根における面と面の接合部)があり、
そこから4つの方向に傾斜面を持つ形状の屋根のことです。

雨水が4方向に流れることから「四注(しちゅう)」とも呼ばれています。
日本に限らずさまざまな国の住宅で採用されているポピュラーな屋根形状のひとつです。

棟は5つあり、屋根の最も高いところにある1つを大棟、
そこから斜め下(軒先方向)に伸びている4つを隅棟または下り棟と言います。
屋根面はすべて同じ形ではなく、大棟と平行方向にある2面(平側)は台形、
大棟から直角方向にある2面(妻側)は三角形をしていることが特徴です。

上空から屋根を見下ろすことはほとんどありませんが、上から見た寄棟屋根は長方形をしています。

寄棟屋根のメリット

数多くの住宅で取り入れられている寄棟屋根には、一体どのような魅力があるのでしょうか。
ここでは、寄棟屋根の主なメリットを4つご紹介します。

景観が良い

1つ目は、シンプルでありながらも台形をした屋根が落ち着いた印象を与えることから、景観が良く見えることです。

古くからさまざまな和風建築に用いられている寄棟屋根。
建物の築年数にかかわらず、和風建築を見ると「重厚な雰囲気が漂っている」と感じたことがある方も多いのではないでしょうか。

そんな重厚感と安定感を兼ね備えている寄棟屋根は、周りの住宅や風景になじみやすく、
都市型住宅にもしっかりと調和することから周囲の景観を損ねることもありません。

また好みによって多少異なりますが、屋根材に瓦を選べば和風住宅に、
金属やスレートを選べば洋風住宅になるなど、どんなテイストの住宅にも合う魅力を持っています。

耐久性・耐風性が高い

2つ目は、屋根面が多いことにより耐久性・耐風性が高いことです。

寄棟屋根は、4つの方向すべてに傾斜のある屋根がついているため、
雨風や雪によるダメージをすべての面で分散することが可能です。

たとえば台風により強い風を受けることになった場合でも、
1面や2面の屋根に集中してダメージを受けるより、4面で分散するほうが被害を抑えられるでしょう。
瓦など重い屋根材を使用する際も、重量が分散されるため有効といえます。

また、軒がすべての面にあることも重要なポイントです。
軒があることで外壁が雨風や紫外線に直接さらされることを防ぎ、外壁の劣化を抑制できます。

長い目で見るとメンテナンスにかかる費用や回数を削減できるため、きれいな外観を長く保つことにもつながるでしょう。

ただし軒の長さが十分でないと外壁を保護しきれないため注意してください。

方向を気にせず家を建てられる

3つ目は、どの向きから見ても屋根の傾斜が均一でバランスよく設置されているため、
方向を気にすることなく家を建てられることです。

一般的に家を建てる際、土地の形状や隣家との距離などによるさまざまな制約が住宅の向きに影響を与えることは少なくありません。

しかし寄棟屋根は、どのような向きで建築したとしても屋根と外壁の均衡が整っているため、
どの方向から見てもバランスのとれた美しい外観を確保できます。

斜線制限に有利になりやすい

4つ目は、都心部などの住宅が密集しているエリアにおいて「斜線制限」が有利になりやすいことです。

斜線制限とは、住宅などを建てる際に太陽の光や風が道路・隣家に届くのを妨げないよう、
建物の各部分の高さを制限するルールです。

ルールを守らなければ建築基準法に違反するだけでなく、
自分が家を建てたことによって隣の家に太陽の光が入らなくなり、
後々トラブルにつながるなどの可能性もあるため注意しなければいけません。

斜線制限にはいくつか種類があり、なかには北側の高さに制限を設けているものもあります。

しかし寄棟屋根は、どの方向の屋根も傾斜が均一で高さが同じため条件を満たしやすく、
他の形状と比較して有利になりやすいといえるでしょう。

寄棟屋根のデメリット

景観の良さや斜線制限のクリアのしやすさなど、さまざまな魅力がある寄棟屋根。
しかし、良い点ばかりに気を取られていると「こんなはずじゃなかった」と後悔する可能性もあります。

ここでは主なデメリットを4つご紹介しますので、きちんと押さえておきましょう。

建築コストが高額になりがち

1つ目は、建築コストが高くなりがちなことです。

寄棟屋根には4つの屋根面と5つの棟があり、さらに屋根面の形は台形と三角形が各2面ずつと異なるため、多くの部材が必要です。
屋根面が1面や2面などの他の屋根形状と比較すると、単純に部材の数が多い分だけ費用も多くかかります。

また、他の形状より工期も長くなる傾向にあり、人件費などを含めてもコストは高くなるでしょう。

しかしながら耐久性・耐風性が高く、4つの方向に軒があることで外壁への汚れや劣化は防ぎやすいため、
住宅全体のメンテナンスコストは削減できる傾向です。
メンテナンスコストを考慮すると、それほどデメリットとは言い切れないかもしれません。

屋根の修理費用は棟板金の長さによって変わる

屋根の修理はいつどんなタイミングで必要になるかわかりません。
修理する屋根の面積が大きいほどコストがかかることは容易に見当がつきますが、
たとえ面積が同じであっても「棟板金(屋根面の接合部を保護する金属製の部位)の長さ」は屋根の形状ごとに異なり、
修理費用にも差が生まれます。

たとえば一般的な棟の長さは、寄棟屋根が約30メートルであるのに対し、切妻(面と面の接合部)屋根は約9メートルです。
※切妻屋根についての詳細は後述します。

建坪が同じ20坪のケースで比較すると、それぞれ以下の修理費用がかかるとされています。

  • 寄棟屋根:30万~40万円
  • 切妻屋根:25万~30万円

屋根の形状によって棟板金の長さが異なること、棟板金の長さが長くなるほど修理費用は高くなることを押さえておきましょう。

屋根裏にスペースを作りにくい

2つ目は、屋根裏に十分なスペースを確保しにくいことです。

屋根の構造上、4つの方向すべてに屋根の傾斜がついていることから、空間が狭く屋根裏にスペースを作りにくくなっています。

屋根裏部分を居室や収納として活かしたい」と考えている方は、空間をうまく活用できない可能性があるため、注意が必要です。

また、スペースを広く確保できないため換気がうまくいかず、湿気や熱気が外へ逃げづらい傾向にあります。

環境によっても異なりますが、換気が悪いと結露やカビが発生するリスクが高まるため、風通しが良くなるよう工夫しましょう。

たとえば、軒天(軒先の天井部分)や棟部分に換気できる仕組みを設けることなどが挙げられます。

何も手を打たずにいると家の寿命を縮めてしまう可能性もあるため、きちんと備えることが大切です。

太陽光パネルを設置しにくい

3つ目は、太陽光パネルを設置しにくいことです。

寄棟屋根は、4つの方向に屋根があるため、
一見「太陽の光が当たりやすい南側にきちんとパネルの設置ができて向いている」と思いがちです。

しかし、屋根面が4つに分かれているため1つひとつの面積が小さく、
太陽の光が当たりやすい(照射効率が良い)南側に設置できるパネルの数やサイズが限られてしまいます。

台形の屋根が南側にあればまだ良いですが、南側の面が三角形の場合、設置できるパネルはより制限されるため、
太陽光パネルの設置を検討している場合は照射効率を高められるよう工夫する必要があります。

しかしながら近年は売電価格が低下傾向にあるため、
たとえ設置できるパネルが限られてしまってもそれほどデメリットは大きくないと考えられるでしょう。

設置面を南側だけにこだわらず、東側や西側にもパネルを設置することで発電量をカバーできる可能性もあります。

雨漏りリスクや雪処理の手間がある

4つ目は、耐久性が高くても雨漏りのリスクがあり、雪の処理にも手間がかかることです。

寄棟屋根は、棟=屋根の面と面が交わる接合部が他の形状と比較して多いことが特徴です。
棟が多い分、隙間から雨漏りが生じる確率は高くなります。

また降雪量が多い場合、雪を4面で分散できるメリットはありますが、
建物を取り囲む全ての面に雪が落ちてくるため、入口付近にも雪が多く積もることになります。

特に雪が多い地域であれば、「ドアが開いても入口に雪が多く積もっていて身動きが取れない」といった事態にもなりかねません。
適切な雪下ろしや対策が必要になるため、手間と時間がかかるでしょう。

寄棟屋根以外の屋根の形状

道を歩いていると、「屋根面が1つしかない家」や「絵本などでよく見かける三角屋根の家」など、
住宅1つひとつに合ったさまざまな形状の屋根を見かける機会は多いでしょう。

ここでは、寄棟屋根以外の屋根形状を5つご紹介します。

切妻(きりづま)屋根

切妻屋根(きりづまやね)は、本を開いて逆さまに伏せたような形状をしている屋根のことです。
寄棟屋根同様、比較的よく採用されている形で、「三角屋根」と聞くとイメージしやすいのではないでしょうか。

特徴は、屋根が2面だけのため棟が少なく、雨漏りのリスクが低いこと。
シンプルな構造ゆえ初期費用やメンテナンス費用も抑えられる点が魅力です。
屋根裏に十分なスペースを確保しやすいため、収納や居室を設けることにも向いています。

寄棟屋根と切妻屋根だったらどっちがおすすめ?

どちらの形状にすべきか迷う方は、「どのポイントを重視したいか」をしっかりと見極めて選択すると良いでしょう。
たとえば、それぞれの形状が向いている方は次の通りです。

【寄棟屋根】

  • 耐久性・耐風性を重視したい方
  • 落ち着いたデザインが好ましい方 など

【寄棟屋根】

  • 費用を抑えたい方
  • 雨漏りのリスクを減らしたい方 など

ただしどちらの形状を選択したとしても、日頃のメンテナンスを怠ると外壁の劣化や雨漏りを招く可能性はあります。
定期的にメンテナンスを施し、修繕が必要な際は早めの対策を心掛けることが大切です。

寄棟屋根と切妻屋根を組み合わせることは可能?

結論から述べると、寄棟屋根と切妻屋根を組み合わせることは可能です。

たとえば、住宅の前方部分には切妻屋根を採用して「住宅の顔」としてのインパクトを持たせ、
後方部分には寄棟屋根を採用することで全体的に落ち着いた印象を持たせることができます。
シンプルな屋根の組み合わせでありながらも、こだわりが詰まった個性的な住宅となるでしょう。

実際に「寄棟×切妻」屋根を採用した住宅や、「寄棟×切妻×片流れ」など3種類の屋根を採用した住宅もあります。

方形(ほうぎょう)屋根

方形屋根(ほうぎょうやね)は、三角形の屋根面を4つ組み合わせた四角錘のような形状をしている屋根のことです。
屋根面が4つある点は寄棟屋根と共通しているものの、台形の屋根面や屋根の頂上部に大棟はありません。

特徴は、雨や雪を4方向に分散するため寄棟屋根同様、耐久性や耐風性が高いこと。

土地の区画などによって正方形に近い形の家を建てる際に採用されることもありますが、
多くの場合は、寺院建築などで採用されています。

入母屋(いりもや)屋根

入母屋屋根(いりもややね)は、寄棟屋根の大棟部分に切妻屋根を乗せて組み合わせたような形状をしている屋根のことです。

特徴は、切妻屋根の通気性の良さと、寄棟屋根の耐久性・耐風性の高さという2つの屋根の魅力を
存分に活かした構造になっていること。
しかし一方で、使用する屋根材が多くそれに伴い接合部も増えることから、
雨漏りのリスクや施工・メンテナンス費用が高い傾向にあります。

どっしりとした重厚感があり日本瓦との親和性が高いため、昔ながらの格式高い屋根といえるでしょう。

片流れ(かたながれ)屋根

片流れ屋根(かたながれやね)は、一方向にのみ傾斜がついている1枚板で構成された屋根のことです。
片流れ屋根はデッドスペースを活かしやすいため、狭小住宅や平屋でも住居空間が確保しやすいとされています。

特徴は、屋根材が少なくシンプルな造りのため、施行・メンテナンス費用が抑えられて経済的であること。
雨や雪の負担が一面にかかるため排水・排雪の仕組みを整えておくことが大切ですが、
ソーラーパネルを設置しやすいなどの魅力もあります。

陸(ろく)屋根

陸屋根(ろくやね・りくやね)は、傾斜がほとんどついていない屋根のことです。
その形状から、「平屋根(ひらやね)」「フラットルーフ」などと呼ばれることもあります。

特徴は、屋上やバルコニーとしても活用できること。
ただし他の形状の屋根と比較すると、水はけが良くないため定期的な防水メンテナンスが必要です。

以前はビルやマンションに多く見られましたが、見た目のスタイリッシュさから近年は一般住宅でも取り入れられています。

まとめ

この記事では、寄棟屋根の特徴を中心に、
押さえておきたいメリットや屋根の修理費用のポイントとなる棟板金の長さについて解説しました。

寄棟屋根は、日本だけでなく海外でも多くの住宅に採用されている屋根形状のひとつです。
耐久性・耐風性が高い」「斜線制限に有利になりやすい」などさまざまな魅力がある一方で、
太陽光パネルが設置しにくい」「屋根裏にスペースを確保しにくい」といった面も持ち合わせています。

屋根は住宅全体の寿命にもかかわってくるため、メリットとデメリットをきちんと理解した上で、
採用する形状を選択することが大切です。