屋根カバー工法は、近年主流になりつつある屋根リフォームのひとつです。
「屋根の機能を向上させたい」「色褪せを改善したい」との理由から検討される方も多いのではないでしょうか。
本記事では、屋根カバー工法を行うメリット・デメリットを中心に、
失敗・後悔しないためのコツや気になる費用の目安などについて解説します。
最後にはおすすめの屋根材も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
- 目次
- 屋根カバー工法とは
- 屋根カバー工法と葺き替え工事の違い
- 屋根カバー工法のメリット
- 葺き替え工事よりも低価格
- 修理期間が短い
- 断熱・遮音・防水の効果が高まる
- ご近所とのトラブルが起きにくい
- アスベスト含有の屋根でも対応可能
- 屋根カバー工法のデメリット
- 屋根全体が重くなる
- 古い屋根の下地をそのまま再利用する
- 依頼できる業者が少ない
- かん合式の場合は屋根全体をはがす必要がある
- 失敗・後悔しない屋根カバー工法での屋根の修理手順
- 屋根カバー工法に関する注意点
- 屋根の種類によっては屋根カバー工法ができない
- 屋根カバー工法は基本的に1回しかできない
- 火災保険の対象外となることも
- 屋根カバー工法の修理時期の目安
- 屋根カバー工法の修理にかかる費用の目安
- カバー工法でおすすめの屋根材は「ガルバリウム鋼板」
- まとめ
屋根カバー工法とは
屋根カバー工法は、既存の古い屋根材をそのまま残して新たな屋根材をその上に重ねる工事方法です。
屋根のリフォームにおける手段の1つで、業者によっては「重ね葺き(かさねぶき)」と呼ばれることもあります。
古い屋根材のうち撤去するのは棟板金・貫板・雪止めのみのため、工期が短く済みかつコストを抑えられる傾向があります。
屋根の総重量が増えるため、重みによる住宅への負担が大きくならないよう上にかぶせる新しい屋根材には、
軽量の屋根材(ガルバリウム鋼板やSGL鋼板など)がよく採用されています。
屋根カバー工法と葺き替え工事の違い
屋根カバー工法と葺き替え工事の違いは、既存の古い屋根材を撤去するか・しないかです。
今ある古い屋根材をほとんどそのまま残す屋根カバー工法に対し、
古い屋根材をすべて取り除いてから新しい屋根材を新たに設置する方法が葺き替え工事です。
見た目はどちらも新しくリフレッシュした状態になりますが、
屋根の構造は古い屋根材との二重または新しい屋根材のみの一重との違いがあります。
また屋根材を撤去する場合、手間や時間・廃材を処分する費用なども必要になるため、工事日数やコストにも差が生まれます。
屋根カバー工法のメリット
屋根カバー工法には、次のようなメリットがあります。
- 葺き替え工事よりも低価格
- 修理期間が短い
- 断熱・遮音・防水の効果が高まる
- ご近所とのトラブルが起きにくい
- アスベスト含有の屋根でも対応可能
それぞれ詳しく見ていきましょう。
葺き替え工事よりも低価格
1つ目のメリットは、葺き替え工事よりも低価格で済むことです。
屋根カバー工法は、新しい屋根材を今ある屋根材の上に重ねるため、
古い屋根材の撤去費用や廃材を処分する費用がほとんどかからず、工事費用を安く済ませられます。
また、サビなどが原因で屋根のリフォームを行う場合、屋根塗装を検討することも多いでしょう。
しかし、屋根カバー工法に用いられることの多いガルバリウム鋼板には「サビに強い」
「焼付塗装や石材チップが施されている」などいくつかの利点があります。
屋根塗装と比較しても長持ちするため、長いスパンで考えるとトータルコストを削減できる傾向があります。
修理期間が短い
2つ目のメリットは、修理期間が短くて済むことです。
葺き替え工事のような屋根材の解体作業がほとんど必要なく、
早くから屋根の設置に取り掛かれるため短い日数(一般的に7〜10日程度)で工事が完了します。
屋根の形状や大きさなどによって多少前後しますが、葺き替え工事よりも工期が短く済むため、
1日でも早く修理を終えたい方に向いているといえるでしょう。
断熱・遮音・防水の効果が高まる
3つ目のメリットは、施工する前と比較して断熱・遮音・防水効果が高くなることです。
屋根カバー工法を行うと、屋根が二重構造(古い屋根材+新しい屋根材)になるため、
屋根を打ち付ける雨音が小さくなるなど遮音性のアップが期待できます。
屋根が二重になることで、多少ではあるものの外気も入りづらくなり、屋根の断熱効果も高められるでしょう。
また、施工の際は屋根材だけでなくルーフィング(防水紙)も新たに設置するため、
屋根の防水効果が高まり、雨漏りの防止にもつながります。
ご近所とのトラブルが起きにくい
4つ目のメリットは、隣家やご近所とのトラブルが起きにくいことです。
屋根のリフォームに限ったことではありませんが、住宅工事において懸念されることのひとつが近隣住民とのトラブルです。
「工事の音がうるさい」「ホコリやゴミの飛散が気になる」など、自分たちは気にならなくても、
周りの方の中にはストレスに感じてしまう方もいるため、注意しなければいけない要素です。
屋根カバー工法は、葺き替え工事と比較すると古い屋根材の撤去がほとんどなくホコリやゴミの飛散が抑えられること、
工期が短く済むことなどからご近所への迷惑も軽減でき、トラブルが起きにくいと考えられるでしょう。
アスベスト含有の屋根でも対応可能
5つ目のメリットは、アスベスト(石綿)が含まれる屋根にも対応できることです。
アスベストは吸い込むことで肺がんを引き起こすなど健康への被害が報告されている鉱物で、1975年に一部使用が禁止されました。
しかし屋根材(スレート材)や防音材などとしてはその後も使用され続けていたため、2006年以前の建築には高い確率で含まれています。
通常アスベストが含まれた屋根材の撤去には、飛散防止対策や特別な装備・作業に秀でた
専門の業者に依頼する必要があり、時間と費用がかかります。
しかしカバー工法なら屋根材を撤去する必要がないため、アスベストの飛散リスクが少なく、
たとえアスベストが含まれていたとしても対応することが可能です。
屋根カバー工法のデメリット
工期や費用が抑えられるなど、葺き替え工事と比較してさまざまなメリットがある一方で、次のようなデメリットもあります。
- 屋根全体が重くなる
- 古い屋根の下地をそのまま再利用する
- 依頼できる業者が少ない
- かん合式の場合は部分的な修理・交換ができない
それぞれきちんと押さえておきましょう。
屋根全体が重くなる
1つ目のデメリットは、屋根全体が重くなることです。
古い屋根材は撤去せず、その上に新しい屋根材の重みがプラスされるため、単純に屋根全体の重量が増します。
屋根の重量が増すことで、「耐震性にも影響があるのでは…」と心配される方がいらっしゃるかもしれません。
しかしカバー工法では、住宅に負荷がかかりすぎないよう軽量の屋根材が用いられるため、
耐震性への影響はさほどないとされています。
古い屋根の下地をそのまま再利用する
2つ目のデメリットは、古い屋根の下地(野地板など)をそのまま再利用することです。
葺き替え工事とは異なり、基本的に屋根の下地の張り替えは行われないことから、
下地が傷んでいる場合、将来的に屋根の耐久性や安定性に問題が生じる可能性があります。
ダメージを受けた下地のままだと屋根の根本的な問題解決にはつながらないため、
下地の劣化状態によっては葺き替え工事の検討が必要になるでしょう。
依頼できる業者が少ない
3つ目のデメリットは、依頼できる業者が少ないことです。
屋根の修理は、瓦屋根なら瓦葺き工事会社、金属屋根なら板金工事会社など、
屋根の構造に詳しくそれぞれを専門に扱う業者へ依頼することが一般的です。
屋根カバー工法に用いられる屋根材の多くは金属屋根のため、通常板金工事会社の板金工に依頼します。
しかし、近年板金工事会社の需要が増えていることや施工する屋根に合わせて建材を
適切に加工する高い技術が求められることなどから、板金工は人手不足の職種となっています。
かん合式の場合は屋根全体をはがす必要がある
4つ目のデメリットは、修理や交換が必要な場合、かん合式だと一つの屋根面全部をはがさなければならないことです。
かん合式は、屋根がはがれにくいよう隣り合う互いの屋根材の締結部(凹側と凸側)をカチッとはめ込んで固定しています。
「施工の工程が少ない」「強風に強い」などの特徴がある一方で、一部分のみの修理や交換が容易にできません。
修理・交換が必要な場合、該当箇所を含む屋根(面)を全体的にはがす必要があります。
失敗・後悔しない屋根カバー工法での屋根の修理手順
屋根カバー工法による屋根の修理手順は、具体的に以下の通りです。
なお、自分で施工することはせず、業者へ依頼するようにしましょう。
- 棟板金・貫板を撤去する
「雪止め」が設置されている場合は、棟板金・貫板と併せて撤去します。 - ルーフィング(防水紙)を取り付ける
必要に応じてルーフィングの位置に印をつけ、軒先からルーフィングを敷いていきます。
軒先から敷いていくことで、屋内への雨水の侵入を防ぐことが可能です。 - 新しい屋根材を葺く
谷棟・隅棟から取り付けていき、屋根の形状や大きさに合わせて棟が重なる部分は適切にカットします。
ルーフィング同様、軒先側から葺いていきビス・釘を用いて固定します。 - 貫板・棟板金を設置する
新しい貫板・棟板金を取り付けます。 - 棟板金にコーキング処理を施す
棟板金の合わせ目にあるわずかな隙間から雨水が侵入しないよう、しっかりとコーキングで隙間を埋めます。
屋根カバー工法に関する注意点
屋根のリフォームは、今後も住み続ける住宅にとってひとつのターニングポイントです。
屋根カバー工法による失敗や後悔を避けるため、次の3つのポイントに留意しましょう。
あとから聞いて「知らなかった」とならないよう、しっかりチェックしてください。
屋根の種類によっては屋根カバー工法ができない
金属屋根やスレート、アスファルトシングルなど、さまざまな屋根の種類に対応できる
屋根カバー工法ですが、一部対応できない種類もあります。
例えば瓦屋根は他の屋根材と比較して重いため、上から新たな屋根材の重さが加わる屋根カバー工法は現実的ではありません。
波のように曲線を描いて厚みもあるため固定が難しく、施工は不向きといえます。
また、トタン屋根やコロニアルなどは、本来技術的には施工が可能な屋根材ですが、
築年数が経つと屋根材や下地の劣化が激しくなるケースが多く、その場合カバー工法は不向きとなります。
屋根カバー工法は基本的に1回しかできない
屋根カバー工法は、繰り返し何度も施工できるわけではありません。
すでに一度施工している場合、「古い屋根材+新しい屋根材」の重さが建物にかかっている状態です。
そこへ再度同じ工法を施すと、さらに住宅に負荷がかかってしまいます。
屋根の重さは住宅の耐震性にも影響することから、基本的に1回しかできないと理解しておきましょう。
火災保険の対象外となることも
火災保険は風災や雪災などが原因で屋根の修理が必要になった場合に適用されますが、
屋根カバー工法では保険が適用されない可能性があります。
保険の種類にもよりますが、火災保険での給付金は「損傷を受ける前の状態に戻す=原状回復」を原則として支払われます。
屋根カバ-工法では、新たな屋根材を用いて施工することから現状回復とは言い難いでしょう。
そのため、必ずしも給付を受けられるわけではなく、場合によっては対象外と判断されることもあり注意が必要です。
屋根カバー工法の修理時期の目安
屋根のトラブルを防いで快適な住まいを長く保つためには、適切なタイミングで屋根の修理(リフォーム)を行うことが大切です。
スレート屋根の場合、屋根カバー工法に適しているタイミングは、住宅の築年数が10~20年頃です。
築年数が20年以上でも対応は可能ですが、築年数が30年以上経過している場合は
下地の劣化が進んでいる可能性もあるため、葺き替えを検討したほうが良いケースもあります。
屋根の状況や環境などを考慮した上で、施工業者に相談すると良いでしょう。
なお、築年数が10年未満の場合は修理そのものを必要としないことが多いです。
反対に築年数が40年以上経過している場合も、下地が劣化している確率が高いため屋根カバー工法は適していません。
築年数に加えて、住宅の立地や環境・屋根材の種類などを考慮しながら修理時期を検討してください。
屋根カバー工法の修理にかかる費用の目安
屋根の修理において、費用が一体どれくらいかかるのか気になる方は多いのではないでしょうか。
屋根カバー工法にかかる費用は屋根材や屋根の面積・形状などによっても多少異なりますが、
1平方メートルあたりおおよそ1万1,000円(税込み)が目安です。
一般的な戸建て住宅の例として、屋根の面積が100平方メートル(約30坪)の場合であれば、
100平方メートル×1万1,000円で約110万円かかる計算です。
さらに足場代として、別途18万~25万円程度必要になるため、トータルで130万円前後を見込んでおくと良いでしょう。
カバー工法でおすすめの屋根材は「ガルバリウム鋼板」
さまざまな種類の屋根材がある中で、屋根カバー工法におすすめの屋根材は次の4つです。
- ガルバリウム鋼板
軽量であることはもちろんのこと、サビに強く耐久性・耐震性にも優れています。 - 石粒付き金属屋根材
軽量かつサビに強いことに加え、金属の表面を石粒で覆っているため色褪せの心配がなく、塗り替えの必要もありません。 - アスファルトシングル
防水性・耐久性に優れており、柔らかい素材のため丸みを帯びている屋根や特殊な形状の屋根にも対応できます。 - SGL鋼板
ガルバリウム鋼板同様軽量な素材で、耐久性・耐腐食性に優れています。
※ガルバリウム鋼板にマグネシウムを追加し、耐腐食性を強化したガルバリウム鋼板の進化系です。
今ある屋根の上にさらに屋根を重ねて設置するため、軽量であることが求められる屋根材です。
それぞれの特徴を押さえて自宅の屋根にピッタリの屋根材を選んでください。
まとめ
この記事では、屋根カバー工法の特徴や注意点、おすすめの屋根材などについて解説しました。
屋根カバー工法は、「葺き替え工事よりも費用を抑えられる」「工期が短くて済む」などのメリットがある一方で、
「屋根の重量が増す」「依頼できる業者が少ない」といったデメリットもある工事方法です。
屋根材の種類や下地の劣化状況によっては対応できないケースもあるため、
屋根の状況を見極めたうえで、屋根カバー工法での修理が適しているのか判断しましょう。